あの坂をのぼれば、海が見える。
こんにちは!
Kaoです。
バッグにカメラを入れてお出かけしたら素敵な花屋さんに遭遇しました(^^)
手作りポップもかわいい♪
素敵な花屋を通り過ぎたところで坂道に遭遇しました。
どことなく懐かしいような雰囲気を感じて思わずパシャリ。
この坂道の先にはどんな風景が待っているのかな。
そう思った時にふと、「あの坂をのぼれば、海が見える」というフレーズを思い出しました。
昔、国語の教科書で読んだ話です。
内容はある少年が昔おばあちゃんから聞いた「あの坂をのぼれば海が見える」という言葉を信じて山を登るのに全然海にたどり着けない。
何度も何度も山を越えて、途中あきらめそうになりながらも海を目指して歩いていく・・・。というストーリーです。
この話の冒頭にある「あの坂をのぼれば、海が見える」がとても印象的で、
坂道や山道を見ると時々この言葉を思い出します。
この坂をのぼったら、もしかして海が見えるかもしれない・・・。
そんな希望にも似たような気持ちが頭をよぎります。
久しぶりにこの言葉を思い出し、懐かしくなったので調べてみたところ、杉みき子さんの「小さな町の風景」の中の一編でした。
とても大好きな作品なので覚書のために記します。
「あの坂をのぼれば」
あの坂をのぼれば、海が見える。
少年は朝から歩いていた。
草いきれがむっとたちこめる山道である。
顔も背筋も汗にまみれ、休まず歩く息づかいが荒い。
あの坂をのぼれば、海が見える。
それは、幼いころ添い寝の祖母からいつも子守唄のように聞かされた言葉だった。
あの山を一つ越えれば海が見えるんだよ、と。
その「山ひとつ」という言葉を少年は正直にそのまま受け止めていたのだが、それはどうやらしごく大雑把な言葉のあやだったらしい。
現に今こうして峠を二つ三つと越えても、海はまだ見えてこないのだから。
それでも少年は、呪文のように心に唱えてのぼってゆく。
あの坂をのぼれば、海が見える。
のぼりきるまであと数歩、半ば駆け出すようにして少年はその頂に立つ。
しかし、見下ろす行く手はまたも波のように、くだってのぼって、その先の見えない長い長い山道だった。
少年はがくがくする足を踏みしめて、もう一度気力を奮い起こす。
あの坂をのぼれば、海が見える。
少年は、今、どうしても海を見たいのだった。
細かく言えばきりもないが、やりたくてやれないことの数々の重荷が背に積もり積もった時、少年は磁石が北を指すように、まっすぐに海を思ったのである。
自分の足で、海を見てこよう。
山ひとつ越えたら、本当に海があるのかを確かめてこよう、と。
あの坂をのぼれば、海が見える。
しかし、まだ海は見えなかった。
はうようにのぼってきたこの坂の行く手も、やはり今までと同じ果てしない上がり下りの繰り返しだったのである。
もう、やめよう。
急に道端に座り込んで、少年はうめくようにそう思った。
こんなにつらい思いをして、いったいなんの得があるのか。
この先山をいくつ越えたところで、本当に海へ出られるかどうかわかったものじゃない。
額ににじみ出る汗をそのままに、草の上に座って通り抜ける山風に吹かれていると、何もかも、どうでもよくなってくる。
じわじわと、疲労が胸に突き上げてきた。
日は次第に高くなる。
これから帰る道のりの長さを思って重いため息をついたとき、少年はふと生き物の声を耳にしたと思った。
声は上から来る。
・・・ふりあおぐと、すぐ頭上を光が走った。
翼の長い真っ白い大きな鳥が一羽、ゆっくりと羽ばたいて、先導するように次の峠を越えてゆく。
あれは海鳥だ!
少年はとっさに立ち上がった。
海鳥がいる。
海に近いのに違いない。
そういえばあの坂の上の空は、確かに海へと続くあさぎ色だ。
今度こそ、海に着けるのか。
それでもややためらって、行く手をみはるかす少年の目の前を、蝶のようにひらひらと白いものが舞い上がる。
手のひらをすぼめて受け止めると、それは雪のようなひとひらの羽毛だった。
あの鳥のおくりものだ。
ただ一片の羽根だけれど、それはたちまち少年の心に白い大きな翼となって羽ばたいた。
あの坂をのぼれば、海が見える。
少年はもう一度力を込めてつぶやく。
しかし、そうでなくともよかった。
今はたとえこのあと三つの坂、四つの坂を越えることになろうとも、必ず海に行きつくことができる、行き着いてみせる。
白い小さな羽根をてのひらにしっかりとくるんで、ゆっくりと坂をのぼっていく少年の耳に・・・あるいは心の奥にか・・・かすかな潮騒の響きが聞こえ始めていた。
「小さな町の風景」から。
杉みき子著
少年が海にたどり着けたのかどうか・・・実際のところはわかりません。
でも彼は長い道のりを経て、やっと自分自身が求めていたものにたどり着いたのでしょう。
たとえつらい思いをしても、その先には必ず希望の光が待っている、
そんなことを教えてくれたような気がしました。
杉みき子さんの「小さな町の風景」、ほかの作品も読みたくなりました(^^)